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ながやてんいちぼう

長屋天一坊

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1950(昭和25)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,453 字 · 57 页

青空文庫

顔だちは、これは比較的なはなしであるけれども、美醜に大別するとすれば、その中間ぐらいには査定できるものだろう。鼻が太く長いところ、眼尻が下って、ゆるみを帯びた唇でいつもにたにたそれとなく笑っているところなどは、もし識見のある人が見るとすれば、無欲恬淡にして非凡な相がないとは断言しないと思う。

騒ぎを聞きつけて、家主吾助がやって来たことは云うまでもない。銀太はそこは多少の思慮があるので、

「大家さんは来ねえで下さい、これはあっしと金太で片づけますから、なんか知らねえ身分のある人らしいし、妙な書付だの短刀なんか持ってるんで、おまけに大名の若殿みてえに馬鹿なんで、とにかく大家さんに迷惑が掛るといけねえから」

「いやそんなことはない、店子のことで迷惑が掛るのは家主の義理だて、なにか、その、書付とか短刀など持っているって、それは本当のことか」

「すばらしく大事な物らしいんで、けどこいつはあっしと金太の責任だから」

「そうでない、いやそうでない」吾助はいきごみ、まず、そこに集まっている住人を追い払った、「さあさあみんな帰った帰った、おまえたちがいたってしょうがない、みんな帰って晩飯の支度でもするがいい、この戸は閉めるから」