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ながやてんいちぼう

長屋天一坊

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1950(昭和25)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,453 字 · 57 页

青空文庫

第二席 臼が臼たる道理のこと

これらは無産階級の耳こすりであるが、有産知識階級においてはさすがにこれより穿っていた。

「実はさる信用のおける筋から聞いたのですがな、他言されては困るんですが、これこれしかじか、……どうです、私もうすうすは推察していたんだが、実はこれこれがしかじかと聞いては驚きました、……どうです」

「いやその話なんですがね、私もね、ほら御存知のあの方面ね、あれからちょいと耳にしたことはしたんですがね、だがまさかと思いましてね、だって貴方まさかねえ」

「いいえ、私のはごく信用のできる筋の話なんで、なにしろ将軍家におかれてはですな、そのときはらはらと御落涙、さすが親子の情であると、閣老一統も暗涙に咽ばれたというのですからな、いいえもう、これは間違いのない筋からの話なんでしてな」

情報の出どころの慥かな、しかし極秘ごくないであるという、この種の風評が市中を横行した。せんさく好きな老人などは突拍子もないような書物など持ち出して来て、事件の淵源を考証したり解剖してみせたりするのである。

第二席 臼が臼たる道理のこと

並びに長屋の若者たくわんと

見代えられのこと

その当時、本所石原町に六軒長屋と呼ばれる貧民住宅区があった。