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ようきなきゃく

陽気な客

山本 周五郎

「苦楽」苦楽社、1949(昭和24)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,086 字 · 46 页

青空文庫

「――女房が来ている筈なんだよ」

「――奥さんがですって」

「そうなんだ、あれが来ている筈なんだよ」

おれは天青が酔っぱらってうわごとを云っているのかとも思った。だが彼はぐっぐっと喉で妙な音をさせ、どうやら泣きだしたようなぐあいだった。

「社長のやつ、ぼくに、今月から月給を二割増してくれると云ったんだ、あいつのために秘密出版の原稿も書いたし、その金は貰って飲んだけれども、ぼくは信用したんだ、……それだけあれば生活ができるどうやら夫婦で食うくらいは食ってゆける、……それで女房を呼んだわけなんだ」

しきりに風がわたり、すると波の寄せるように、枯草が遠くのほうからさあさあとこっちへ鳴り騒いで来て、二人のまわりを向うの暗がりへと鳴り騒いでいった。

「女房にはずいぶん苦労や心配をさせて来た、こんどこそ二人で世帯をもち、幾らか楽をさせてやれる、……そう思って手紙を出した、女房はよろこんだ手紙をくれた、そして今月いっぱいで暇をとることにして、蒲団やなにかは二三日まえに着いたんだが、……今朝あれから電報があって、今夜の九時に神戸へ着くといって来たんだよ」

「それじゃあぼくたちが飲んでいたじぶん」