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ゆきのうえのしも

雪の上の霜

山本 周五郎

「面白倶楽部」光文社、1952(昭和27)年3月~4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,586 字 · 50 页

青空文庫

小室道場としてはむろん「青岳流」を教えるわけで、他流の技を教えるなどということはない筈である。伊兵衛もそこを心配したのであるが、青岳はなにか思案があるとみえ、教授法についてはなにも云わず、すべて伊兵衛の好むままに任せた。

伊兵衛は溢れるような元気で、いかにも楽しそうに稽古をつけた。

彼はじっさい楽しかった。精気に満ち溢れていた。これまでしばしば、自分は武芸をするために生れて来たのかもしれない、と思ったのであるが、武芸ならなんでもいい、相撲でも結構。身心の全能力を尽して勝負を決する。明快で清潔で、しかも自分の才能をこれほど単直に示すものはない。伊兵衛はすべて明快単直が好きであった。

ひとに稽古をつけることは、これが初めてといってもいいくらいだが、やってみるとまんざらではない。それに従来と違って、「勝負を抑える」という法を案出しているので、門人たちのうけもよかった。

「三沢先生もうひと手お願いします」

「そう詰めてやっても疲れるだけですよ、今日はもう貴方はおあがりなさい」

「いえ大丈夫です、済みませんがもうひと手」

そんなふうに熱心に、稽古をせがむ者が多かった。