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ゆきのうえのしも

雪の上の霜

山本 周五郎

「面白倶楽部」光文社、1952(昭和27)年3月~4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,586 字 · 50 页

青空文庫

「はあ、そうでございますか」

「そうですとも、大仏さまの褌のようなもんでさあ」こう云いながら、客はさらに続けて、胆石病に効験のある薬とか、信仰するに適した神仏とか、秘伝のまじないとか、忌むべき飲食物などを挙げたうえ、「それからおまえさん、大事なのは寝る方角さね、胆石病には乾が禁物で、胆石病の者が乾の方角へ頭を向けて寝るのは、欠け茶碗をはだしで踏んづけるようなもんでさあ」

そんなことまで云うのであった。

道は峠にかかった。歩くうちに、汗ばむほど暖たかい日で、雪の斑に残った地面からは、しきりに陽炎が立っていた。客の饒舌に少しばかり飽きてきた伊兵衛は、峠にかかるとまもなく、うしろから来る二人の馬子の(聞えよがしな)たか声に気がついた。

「いつまで遠廻しに云ったってしようがねえ、相手はおめえそらを使ってるんだ、はっきりけじめをつけてやろうじゃあねえか」

「おらあ初めからそう云ってるんだ、仲山と吉田の建場だけでも十八人、指をくわえて見てるこたあねえやな」

明らかに暴力の暗示だった。これまでの、当てこすりやこけ威しとは調子が違っていた。まるで違っていた。そして、その意味をさらにはっきり聞かせるためだろう、二人の言葉はもっと強く、じかで、汚なくなっていった。