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ゆきやなぎ
雪柳
泉 鏡花
「中央公論 第五十二年第十三號」1937(昭和12)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 45,054 字 · 90 页
間淵は見えないで、その煎餅蒲団のかかった机の上に、入船帳の蔽を抜けて、横綴の表紙が前申した、「魔道伝書」、題ばかりでも、黙って見たままで居られますか。いきなり開けた処に、変な、可訝しな、絵があったのです。
若い、優しい女が裸体、いや、裸体じゃないが、縁の柱に縛られた、それまでのかよわい抵抗、悩乱が思われる。帯も扱帯もずり落ちて、絡った裳も糸のように搦んだばかり。腹部を長くふっくりと、襟の辷った、柔かい両の肩、その白さ滑かさというものは、古ぼけた紙に、ふわりと浮く。……
が、もう断念めたのか、半ば気を失ったのか、いささかも焦躁苦悶の面影がない。弱々と肩にもたせた、美しい鼻筋を。……口を幽に白歯を見せて、目をいたまま恍惚している。
それを、上目づかいの頤で下から睨上げ、薄笑をしている老婆がある、家造りが茅葺ですから、勿論、遣手が責めるのではない、姑が虐げるのでもない。安達ヶ原でない証には、出刃も焼火箸も持っていない、渋団扇で松葉を燻していません。ただ黒い瓶を一具、尻からげで坐った腰巻に引きつけて、竹箆で真黒な液体らしいものを練取っているのですが、粘々として見える。