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ゆきやなぎ

雪柳

泉 鏡花

「中央公論 第五十二年第十三號」1937(昭和12)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 45,054 字 · 90 页

青空文庫

の巻莨をまた撮んで、菓子盆を前に卯の花のなよなよと白いのを見ながら、いま帰った尼巫女の居どころを、石燈籠のない庭越に、ほのかに思いうかべました。待合、雪の家。

姪に当る、赤坂に芸妓をしていると、いつか聞いたのが、早く旦那なるものにひかされたか、事情はとにかく、心づもり二十そこいらで、まだ、若い。

この後見なり、客のとりまわし、家のきりもりをしていると思われる、その母親があるのです。妹ぐるみ打棄った、……いや間淵洞斎が打棄られた女房の、後二度目の女房なのです。後添、後妻、二度目の嫁といっても、何となく古女房のように聞えますが、どうして、間淵と夫婦になった年が、まだ、ほんの十五六。で、ただ一度だけ、その頃、私が、本所で逢った事がある。……

師匠明流の情で、弟子小僧に、住込んだ翌年の五月です。花時に忙がしい事があって用が立込んだかわりに、一日お暇が出て、小遣を頂いた。師匠は大家でも弟子は小僧だ、腰の煙草入にその銀貨を一枚「江戸あるき」とかいう虫の食った本を一冊。当日は本所の五百羅漢へゆくつもりで、本郷通りを真すぐに切通し、寄席の求肥の、めがねへ出ました。