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ゆきやなぎ

雪柳

泉 鏡花

「中央公論 第五十二年第十三號」1937(昭和12)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 45,054 字 · 90 页

青空文庫

幇間、もう遅い。分別おくれに、船頭と相顧みて、「船中このあたりにては、かような不思議はままある事、後に聞くもの、驚かずという事なし、いかなるものやらん合点ゆかず、恐しかりける事なり。」である。

が、ここを筆耕した、上品な、またおっとりと、ものやさしい、ご新造、娘には、恐しかりける事より、何となく、ものあわれに、悲しく、うら寂しく、心を打たれたろうと思う。

あとは隅田の凩である。

この次手に――

浅間山の麓にて火車往来の事

軽井沢へ避暑の真似をして、旅宿の払にまごついたというのではない。後世こそ大事なれと、上総から六部に出た老人が、善光寺へ参詣の途中、浅間山の麓に……といえば、まずその硫黄の香と黒煙が想われる。……さて行悩んで、侘しげなる茶屋に立寄り休むうちに、亭主がいうには、去年、(享保年中)八月中ばの事――その日も、やがて八ツ下り。稗黍の葉を吹く風もやや涼しく、熔岩とともにころがった南瓜の縁に、小休みの土地のもの二三人、焼土の通り径を見ながら、飯盛の彼女は、赤い襦袢を新しく買った。笄を質に入れたなどと話していると、遥に東の方よりむら立つ雲もなく、虚空を渡るがごとく、車の駆来る音して、しばらくの間に目前へ近づいたのを見ると、あら、可恐し、素裸の荒漢、三人、車を宙に輾くごとし。