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ゆきやなぎ

雪柳

泉 鏡花

「中央公論 第五十二年第十三號」1937(昭和12)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 45,054 字 · 90 页

青空文庫

心細道岩坂辿り、辿りついたはその松の蔭。かげの夫婦は手で抱合うて、かくす死恥旗天蓋と、蛇目傘開いて肩身をすぼめ、おとせ、あれあれ草葉の露に、青い幽な蛍火一つ、二つないのは心にかかる。されど露には影さすものを、わたしゃ影でも厭いはせぬと、縋るおとせをまた抱きしめて、女房過分な、こうなる身にも、露の影とは、そなたの卑下よ、消ゆるわれらに永劫未来、たった一つの光はそなた。さらば最期ぞ、覚悟はよいか、いえばおとせは顔ふりあげて、なんの今さら未練があろう、早う早うと両掌を合わす、松もかつ散る氷の刃……

つらつら思うに、心中なぞするもんじゃありません、後世には酒の肴になる。いや怪しからない、いつまで聞いていようというんだ。私は心で叱りました。」――

「――ありがとう……厚くお礼を申上げる……唄と、馳走のお厚情、かさねて、ご挨拶を。これで、失礼――心なく、思わず長座をいたしました。何だか帰途に一本松が見たくなりました。」と、機に起つと、

「わけないぞに、一緒に行こうかに。」

慄悚とした、玉露を飲んで、中気薬を舐めさせられた。その厭な心持。酔も醒めたといううちにも、エイと掛声で、上框に腰を落して、直してあった下駄を突っかける時、