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ゆきやなぎ

雪柳

泉 鏡花

「中央公論 第五十二年第十三號」1937(昭和12)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 45,054 字 · 90 页

青空文庫

処へ自動車が見つかった。

弱った、一応は声をかけなければ済まない。

「ああ、柳町へ来ましたね。」

ちょうど人丈三つばかりなのが、雨に青い蓑で立っていて、その傍に空地を控え、おでん屋が出ていました。

「またおもい出します、難有い。」

傘の中から面と肩を斜っかいに、つっかかるように暖簾の中へ突出して、

「や、お閻魔殿、ご機嫌よう。」

「一口にがアぶり、えヘッ、ヘッヘッ、頭から塩という処を……味噌にしますか。」

「味噌は、あやまる。からしにしてくれ、菎蒻だ。」

「掛声はありがたいが閻魔はひどうがす。旦那、辻の地蔵といわれます、石で刻んで、重味があっても、のっぺりと柔い。」

「なるほど。」

「はんぺんのような男で。」

「はんぺんは不可い、菎蒻だ。からしを。」

「ご酒は……酒はそれこそ、黒松の生一本です。」

「私は、何だったって、一本松だよ。」

傘に葉ずれの音がします。うしろから柳の寝ン寝子を着せ掛けられるような気がして振向くと、一つに包まったほど、小雨もほの暖く湯上りの白い膚が、単衣を透通るばかり、立っている。

「おお、こりゃ、雪の家の、ご新姐。」

待合の女房を、ご新姐という。