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ゆき

雪

中谷 宇吉郎

「雪」1938(昭和13)年 11月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 77,536 字 · 152 页

青空文庫

それで早速その方法を採用したのであるが、低温室内に装置を入れて、繊維を吊して、温い水蒸気を送って見ると、繊維一面に霜の結晶が附着して、丁度毛虫のような形になってしまうのにはちょっと弱った。これでは困るので、繊維上の一点だけに氷の結晶を付け、そこから雪の結晶を発達させながら、繊維の他の部分には霜が附着しないようにする工夫が次に必要となって来た。初めの中は、そんな勝手なことが注文通りに出来るとはちょっと考えられなかったのであるが、有難いことには、根気よく色々やって見ていると巧いものが見付かった。それは極細い兎の腹毛であった。どうして兎の毛がよいかという理由は、後で詳しく述べることとして、とにかく兎の毛を巧い条件の下で使うと、ちゃんと雪の結晶が出来たのである。その条件というのは先ず兎の毛を十分よく乾燥させて置くことと、水温を初め低くして置いてそれから徐々にあげることとであった。

このようにして水温を適当に調節してやると、天然の六花の雪の結晶と全く同じものも出来れば、角板状、角柱、砲弾型などのいろいろの結晶も、後には勝手に作ることが出来るようになったのである。