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かぜ
風
壺井 栄
「文芸」1954(昭和29)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 38,702 字 · 78 页
足のついたまな板をちゃぶ台にして、きゃっきゃっと笑いながらふたりはむかいあって最初の夕餉をとった。田舎そだちの茂緒の手なれたところで里芋の味噌汁に、高野豆腐と油あげと、きり干大根の煮つけ、黄色いたくあんで、祝いの小さな鯛は一匹だった。修造は鯛よりも高野豆腐ときり干をよろこび、母を思いだすといい、久しぶりだといった。夕食がすむと、ふたりは連れだって、ふとんやをさがしに出かけた。暗がりではより添い、人の足音に離れ、遠慮ぶかく歩いた。ふとんやは市場の近くにあった。せんべいぶとんとはこれかとうなずかされるほど薄い木綿のふとんを三枚かりた。一枚一晩十五銭だった。二晩の約束で九十銭を前ばらいした。ふろしきに包むと一枚のふとんほどの高さになり、茂緒でも軽々ともてると思われるほど小さかった。ふとんやはそれを、おおぎょうに背負って家まで持ってきた。だまって受けとって、床の間の前に重ねたまま、その前で二人は田舎への手紙をかいた。修造は兄に、茂緒は両親に。
――どうぞ私の幸福のために、わがままをお許しください。かならずかならず仕合わせになってみせますから……。そこまで書いて茂緒は思わず畳に伏した。