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かぜ
風
壺井 栄
「文芸」1954(昭和29)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 38,702 字 · 78 页
だが、はたの人にやきもきされて、それで何とかなるなど、田舎娘だとはいえ、新しい時代を生きようとしている修造たちの息吹にふれてきた茂緒にとっては、阿呆らしくて問題にならなかった。何一つ新しい知識があるのでもないのに、茂緒は啖呵をきるのだ。
「自分の始末ぐらい自分でやるさかい、心配しなさんな。お母さんらと時代がちがうんじゃ。それに、嫁にいかん娘が一人ぐらいおったって、よかろがいの。」
そのくせ、修造から、東京へ遊びにこないかという手紙をもらうと、彼女はのぼせあがってしまった。
「修造さんが、来いって。うち、行こうかしらん……」
母をまともに見ることもできぬくせに、はっきりといった。母はおどろいて、
「来いって? 一しょになろうというのかい。」
茂緒はさっと水をかけられたような気がし、こんどはいつもの気さくさで、
「東京見物によ。茂、行ってこうかな。――土曜日の晩の船にのって、日曜の朝神戸から汽車にのって、そしたら夕方東京に着かあ。その晩深川の兄さん家に泊ってえ、月曜日に東京見物してえ、その晩夜行にのってえ、あくる日神戸の君代姉さん家にちょっとよってえ、その日の船で戻ったら、まる三日で戻ってこれらあ。