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かぜ

風

壺井 栄

「文芸」1954(昭和29)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 38,702 字 · 78 页

青空文庫

」

すると彼は苦笑して、

「ありゃあ借りてたんだよ。Sの一帳羅を。」

「あれが一帳羅。」

今の修造は、いつか本郷であったおかっぱの男と同じように、コール天のズボンに黒いルパシカのきたきり雀だった。どうやらそれが、はやりらしかった。寒いときには、その上に肘のすりきれたよれよれのオーバーを着た。オーバーは、ときにはまた、いつも着物のIやNが着物の上に羽織って出かけることもあった。米がなければ食いにくるし、金がなければ借りにくる。いわば、おたがいの財布は見通しのようなそんな一団に修造もくわわっていた。そこに茂緒が仲間入りできるかどうか、茂緒自身はまだ考えるところまでいってはいなかったのだが、修造の方には、茂緒にたいして、汚れたシャツは捨てたい気もちと同じように、何か新しいふんぎりを、ここらでつけねばと思っていたらしい。それは故郷と母につながる思いでもあった。彼は懸命に仕事をさがし、そしてやっと見つけてきたのである。知人のKの勤めている通信社の仕事だった。それは、名士の講演を聞いてまわっては、その要点を筆記してかえり、書きあらためて地方の新聞へまわすという仕事だった。