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かぜ

風

壺井 栄

「文芸」1954(昭和29)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 38,702 字 · 78 页

青空文庫

みんなアナキズムの思想につながれている者ばかりだった。牧師くずれの男もいれば、商人の息子もいた。彼らの「神様」はクロポトキンであり、大杉栄であるらしかった。難波大助や朴烈も英雄であった。一くせありそうな様子をして語るその人たちの言葉には暴力のにおいがあった。そのくせ、自慢らしくリャクの話をする者たちもいた。

――手紙一本出すんだよ。女房が死にそうだとか、子供が病気だけど医者にかけられないとか、哀れっぽく書くんだよ。二円おくってくるよ……。

リャクの方法をまだ知らない者に、経験者がそれを教えてやる。みんなが喜ぶと、

――あんまり一ぺんに出すなよ、おい。それに病気の女房や子供ばっかりでもバレちゃうぞ。悲劇を創作するんだな……。

それをある紡績会社へ出すのだという。リャクは略取の略だった。教えているのはやはり詩人で、たまに飜訳の下請けなどをしているという背の高いBだ。そんなことについて、茂緒は手さぐりで感じとったことを修造にきいてみる。

「アナキストって、どうして人のふところ、あてにするの。自分は働かないで。」

修造は彼や、彼と行動をともにしている人たちの思想について、まるでひけめでも感じているかのように、それを茂緒に話したがらなかった。