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ひだのかいだん

飛騨の怪談 新編 綺堂怪奇名作選

岡本 綺堂

岡本綺堂『飛騨の怪談 新編 綺堂怪奇名作選』。同一底本的分册已合并为一书。收入:飛騨の怪談、影、画工と幽霊。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 130,271 字 · 263 页

青空文庫

(十八)

」

お杉は嘲るように高く笑った。如何にも他を馬鹿にした態度である。もう斯うなっては我慢も堪忍も能ぬ。市郎の疳癪は一時に爆発した。

「彼方へ行けと云うのに……判らないか。おい、這奴を彼方へ引摺って行け。」

左右を顧って又呶鳴ったが、直には声に応ずる者もなかった。これが余人ならば知らず、一種の魔力を有っているかの様に思われているお杉婆に対って、迂濶に手を下すのは何だか不気味でもあるので、何れも眼と眼を見合わして、真先に進んで出る勇者を待っていた。

この臆病者等が怯んで動揺めく醜態をじろじろ見廻して、

「ははははは。」

お杉は又もや凱歌の笑声を揚げた。

(十八)

この時、群集を押分けて、捫着の中へ割って入ったのは、駐在所の塚田巡査。年の壮い、色の黒い、口鬚の薄い、小作りの男であった。

彼は職掌柄、平生からお杉婆に就ては注意の眼を配っている処へ、恰もこの騒動を見付けたのであるから、容赦は無い。

「こら、お前はここへ来て何をして居る。ここの家の迷惑になるから、早く立去れ。」

お杉は依然笑って答えず、腰にぶら下げた皮袋から山毛欅の実を把出して、生のままで悠々と咬り初めた。