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ひだのかいだん
飛騨の怪談 新編 綺堂怪奇名作選
岡本 綺堂
岡本綺堂『飛騨の怪談 新編 綺堂怪奇名作選』。同一底本的分册已合并为一书。收入:飛騨の怪談、影、画工と幽霊。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 130,271 字 · 263 页
(二十二)
冬子も声を顫わして、「妾は死んでもあんな家へは行きません。」と云った。これも道理である。
「だが、お前は真実にお葉という女と関係は無いんだな。」と、霎時して父は問うた。
「実際です、実際関係は無いんです。」
市郎は之より他に、自分の潔白を表明すべき詞を知らなかった。わが子を信ずる安行は僅に首肯いたが、疑惑と嫉妬とが蟠まれる冬子の胸は、まだ容易に解けそうにも見えなかった。
「冬子さん。」と、安行は声を和げて、「倅も此の通り云うんだから、よもや嘘じゃアありますまい。で、今日のことは阿母さんが心配しないように、能く云って置いて下さい。何れ私からも委しいお話を為ますから……。」
差当り斯んなことを云って、冬子を宥めるより他は無かった。冬子も何時まで憤っても居られないので、解けぬ疑惑を懐いたままで、やがて我家へ帰る事となった。が、途中が何となく不安である。
「可、私と七兵衛とで送って上げよう。」
安行と七兵衛は冬子を送って出た。
(二十二)
虎ヶ窟の前に立ったお葉は、霎時夢のようであった。襟に沁む山風に吹き醒まされて、少しく正気に復って見ると、自分の白い手は人か山か判らぬような重太郎に掴まれていた。