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しゃべりすぎる

饒舌りすぎる

山本 周五郎

「オール読物」文藝春秋新社、1962(昭和37)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,957 字 · 55 页

青空文庫

「おれたちは」と十太夫がまじめに云った、「人に聞かれたくない相談があるんだ」

「ようござんすよ、百日以上も待ってたんですもの、はいお一つ」

「勘のにぶいやつだな」十太夫は酌を受けながら、露悪的な口ぶりで云った、「おれはおまえが嫌いだ、土田もおまえが嫌いなんだ、二人ともおまえが嫌いなんだぞ」

「そんなにひとをおだてないで」

「よく聞け、いいか」

「お酌して下さらないの」おみのは盃を取って云った、「きれいな雪だこと」

土田正三郎がおみのに酌をしてやった。十太夫は土田を睨み、おみのを睨んだ。

彼女は二人の恋人だったのだ。十太夫が念流の修業から帰ったのは二十一歳のときで、その帰国祝いに、二人は初めてこの枡平へ来、おみのの給仕で小酒宴をたのしんだ。そして十太夫は一遍でおみのが好きになり、せっせと枡平へかよいだした。枡平は勘定の高いので有名だから、三日にあげずというわけにはいかなかったが、少なくとも七日に一度ぐらいは、休まずにかよいつめた。さそうのも十太夫であり、勘定も十太夫が払った。土田が心配すると、十太夫は笑って「じつは内職をしているのだ」とうちあけた。富裕な商家の息子とか、家中の裕福な家の伜などに、内密で稽古にかよい、毎月それから謝礼を取るのだそうである。