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こうすいしんし
香水紳士
大阪 圭吉
「少女の友」實業之日本社、1940(昭和15)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,752 字 · 16 页
すると紳士は、いよいよわけが判らないというような顔をしながら、少からずうろたえはじめ、急にいそぎ足になった。
と、その体から立ちのぼる芳香は、自ら捲きおこした風に乗って、いよいよひろまり、一層多くの人びとが立ちどまって、不思議そうに紳士を見詰めはじめた。
紳士は、泣き出しそうに顔をしかめた。が、急に今度は、真ッ赤になると、歩きながらしきりとなにかブツブツいいはじめた。そして前よりも一層はげしくうろたえはじめ、あわてた足どりで、プラット・ホームから地下道へ、地下道から駅の出口へと、折から爽やかな五月の微風に、停車場一面ときならぬ香水の嵐をまきおこしながら、かけ出して行った。
このような紳士が、駅の出口で、さっきから鼻をヒクヒクやりながら、待ちかまえているお巡りさんを、ごまかすことが出来よう筈はない。‥‥
その晩、東京のお家へ帰ったクルミさんのところへ、警視庁のえらいお巡りさんと、××銀行の支配人さんと、それから新聞社の人たちがやって来た。
写真をとられたり、色々な話を聞かれたりしたあとで、銀行の支配人さんがいった。
「お嬢さん。あなたのお蔭で、私共の銀行は、おお助かりをいたしました。