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こうやひじり

高野聖

泉 鏡花

「新小説 第五年第三巻」春陽堂、1900(明治33)年2月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,025 字 · 71 页

青空文庫

)

(何でも人間を乗っけられそうな馬じゃあござらぬ。お坊様は命拾いをなされたのじゃで、大人しゅうして嬢様の袖の中で、今夜は助けて貰わっしゃい。さようならちょっくら行って参りますよ。)

(あい。)

(畜生。)といったが馬は出ないわ。びくびくと蠢いて見える大な鼻面をこちらへ捻じ向けてしきりに私等が居る方を見る様子。

(どうどうどう、畜生これあだけた獣じゃ、やい!)

右左にして綱を引張ったが、脚から根をつけたごとくにぬっくと立っていてびくともせぬ。

親仁大いに苛立って、叩いたり、打ったり、馬の胴体について二三度ぐるぐると廻ったが少しも歩かぬ。肩でぶッつかるようにして横腹へ体をあてた時、ようよう前足を上げたばかりまた四脚を突張り抜く。

(嬢様嬢様。)

と親仁が喚くと、婦人はちょっと立って白い爪さきをちょろちょろと真黒に煤けた太い柱を楯に取って、馬の目の届かぬほどに小隠れた。

その内腰に挟んだ、煮染めたような、なえなえの手拭を抜いて克明に刻んだ額の皺の汗を拭いて、親仁はこれでよしという気組、再び前へ廻ったが、旧によって貧乏動もしないので、綱に両手をかけて足を揃えて反返るようにして、うむと総身に力を入れた。