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ぎょもん

魚紋

吉川 英治

「冨士 臨時増刊号」1936(昭和11)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,582 字 · 30 页

青空文庫

波紋魚紋

一

――七百両を乗でゆけば、取り分は半分になる。勿体ねえから嫌だというんだ。おらあ一人であの金を揚げるんだから』

『ふ、ふざけた事をいうな』

『何を息り立つすじがあるか。てめえの金じゃあるめえし……』

『ようし! ……。おれも山岡屋だ。取れるものなら取ってみろ』

『一割もくれというなら、手伝わせてもやろうが、さもなけれや、虻蜂とらずになるぜ。はははは、どれ、階下へ行って、面でも洗おうか』

二階の荒っぽい話し声を、階下でも変に感じたのであろう。玄庵もかまきりも、碁をやめて、天井を仰いでいた。

だが、そこへ下りて来た薊と山岡屋は、もう何も気色ばんだ顔いろはしていなかった。

『よう、又夜明かしか』

薊は、にやにや云うし、山岡屋は

『おや、春作さんは、もう帰ったんですか』

と、見廻して坐りこんだ。

その春作は、風呂から上ったお可久と、台所部屋の隅で、何かヒソヒソ話していたが、やがてそっと傘を借りて帰って行った。

波紋魚紋

一

『――嘘かな?』

山岡屋は、小舟の縁から、落ちこみそうに、川の中を覗き込んでいた。

独りで漕いで来た貸船を、永代橋から少し下流の所を約二十間ほどの間、あっち此っ方漕ぎ廻って、