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ぎょもん

魚紋

吉川 英治

「冨士 臨時増刊号」1936(昭和11)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,582 字 · 30 页

青空文庫

すぐ、後から追い込んで行ったのは、かまきりの伝九郎だった。青い月が空にある晩で、元よりこの辺は人通りもなかった。

『野郎っ。出て来い』

かまきりは、大刀を提げて、材木の下を覗いた。

横たわっている材木の枕木の奥に、薊は、竦みこんでいた。

『かまきり、何だって俺を。……何も俺に意趣も恨みもあるめえに』

『所が、大有りだ。てめえは、お可久を狙っているだろう』

『お可久の事なら、俺は、手をひいてもいい。何も、女旱りをしているわけじゃなし』

『いや、何うあっても、汝の生命は欲しい。出て来いっ。うぬ、出て来ねえなら』

刀を突っ込んで、闇を掻廻すと、

『待ってくれ、かまきり』

『遺言があるなら、今のうちに云え』

『おめえは、山岡屋に頼まれて、俺を殺してくれと云われたのだろう』

『それが何うした』

『読めた。おめえは、お人好しだ。何も知らねえんだ。騙されているのだ』

薊は、材木の奥へ、蟇のように身を避けた儘、そこから必死の弁をふるって、山岡屋が和尚鉄の沈めた七百両の金を河から揚げようとしている目企みをすっかり喋舌り立てた。

『おめえに、幾らその頒け前を出すと云ったのか知らねえが、金なら俺がやろうじゃねえか。