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なるとひちょう

鳴門秘帖(三)

吉川 英治

吉川英治『鳴門秘帖(三)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:鳴門秘帖、鳴門秘帖、鳴門秘帖。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 261,216 字 · 521 页

青空文庫

「ウ、邪魔をしやがると、承知しねえぞ。さ、女を前へ出せ、女を!」

力み立って、ねじこんでくる。

弦之丞は、迷惑きわまる様子をして、勝手に、襟元をつかませていたが、笠の目堰から、つらつらその男の顔を見ると、これはまたまんざら縁のない者でもない。

いつぞや、猫間堤で、その時の都合から、当て身をくれて捨てて行った、森啓之助の仲間だ。

「ウーム、そちは宅助」

こういわれると、ぎょっとして、

「な、なんだと」と、ふりあおいで――

「あっ、てめえはッ?」

と、泳ぎだしたが、すかさず伸びた弦之丞の右手が、ムズと襟がみをつかんで、

「待て」

ズルズルと引き戻した。

そのもがいてよろめく足もとから白い土埃が舞うのを浴びて、宅助はうなるように、

「ちぇッ、しまった」

と、舌打ちをしながら、すばやく、三尺帯を引っぱずして、対手に着物をつかませたまま、スルリと脱ぎ抜けて、

「うぬ、見ていやがれ!」

グイと睨んで、捨て科白をいったまま、後も見ずに一目散。

倶利迦羅紋々の素ッぱだかが、真昼の太陽に、蛇の皮のように光って、小気味よくも、タッタと向うへ逃げだしてゆく。

すると。

高津筋の辻から、お十夜孫兵衛、チラリ、チラリと雪踏を鳴らして曲ってきた。