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なるとひちょう

鳴門秘帖(三)

吉川 英治

吉川英治『鳴門秘帖(三)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:鳴門秘帖、鳴門秘帖、鳴門秘帖。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 261,216 字 · 521 页

青空文庫

「片づけるなら、宅助を呼んだがいい」

「あいつ、そこらにいるかしら」

「最前、お長屋で門番と将棋をさしていたようだ。その窓から大きな声をして呼んだら聞こえるだろう」

と一角が顎でいった。

周馬はちょッと癪にさわったように唇をゆがめた。こんな時、いつでも一角の倨傲とお十夜の図々しさから、自分が立ち用をさせられるのが不満なのだ。

(よし、おれも一角のように構えて、お十夜のように図太くなっていよう)

かれは常に心のうちで、そういう工合に修養しようと要心しながら、ツイ自分から口をだしては、自分から用を求めてしまった。

(まあいいわ、今にだ、今におれの真価も分るこった。旅川周馬様、それ程のご人物であったかと、あとでこいつら、眼の玉を白くする時節があるんだ)

こう思って、周馬はいつも不満をさすった。で、今もちょっとむッとしたが、

「お、呼んでやろう」

気軽にいって、切窓から邸内を見廻した。

通用門から御用口までの広い間に、きょうは蜘蛛の巣取りのお留守居役も宅助も見えなかった。で、かれは、そこからお長屋のほうへ向って、

「宅助ッ――、宅助はおらんか――」

大きな声をくり返していた。