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なるとひちょう

鳴門秘帖(三)

吉川 英治

吉川英治『鳴門秘帖(三)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:鳴門秘帖、鳴門秘帖、鳴門秘帖。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 261,216 字 · 521 页

青空文庫

廊下をぶらぶらしてみたが、しかたがなく、

「では」

と戻ろうとすると、

「森様、森様……」と呼び止めて、お久良はその部屋へ行燈をすえて、

「お伺いしたいことがございますが」

「拙者に」

「はい」

簾戸を開けて迎え入れると、お久良は啓之助を見ながら、意味ありげに笑くぼを作って、

「今夜の船で、あなた様のご懇意なお方も、阿波までお送りいたすことになっております」

「ああ、そうであったな」

お米のことであろうと、啓之助、少し間が悪そうに思い当たって、

「つい、礼を申すのも忘れていたが」

「いえ、滅相もござりませぬ」

「船に馴れぬ女のこと、何分、途中気をつけてやってくれい」

「たいそうお美しくっていらっしゃいます」

「いや、なに」

と顔を撫でるのを、お久良はニヤニヤ眺めていたが、

「なぜご一緒になって、途中見てあげないのでございますか。殿方の薄情を、さだめしお米様もお恨みでございましょうに」

「そう申されると困るが……」

「でも、せっかく、ひとつの船でお帰りなのではございませぬか」

「実はの」

と顎で数寄屋を指しながら、

「竹屋卿には話されぬ女なのだ」

「ホ、ホ、ホ。それは悪いご都合でございますこと」