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なるとひちょう

鳴門秘帖(三)

吉川 英治

吉川英治『鳴門秘帖(三)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:鳴門秘帖、鳴門秘帖、鳴門秘帖。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 261,216 字 · 521 页

青空文庫

どうしたろうか? 弦之丞、そのほかの者の影も見当らない。耳をすましたが、霧の中にも、それらしい叫びを聞かない。

お綱は身を起こすと一緒に、世阿弥の顔をむさぼるように見つめた。

世阿弥は目を開いていた。

深傷だ、眸は虚空にすわってうごかない、だが、何か言いたそうに、唇がかすかに歪む……。

お綱は、お十夜の一言を思いだした。そして、さすがに取り乱した。

「お綱です! お綱でございますよ! 分って下さい、気を……気をたしかにして下さい」

アア、と心をくじきかけては、また、

「お父さん!」

と、耳へ口をふるわせて、

「お綱ですよ――ッ」

涙まじりの金切り声になった。

「ウーッ……」と少し通じたらしい。世阿弥の手が、目の先の白い霧をつかむようにした。

「お……」

「分りますか! 分りますか」

「…………」

「お父さんッ」

「…………」

ゴクリと喉の骨がうごいた。と、少し楽な呼吸がふッと洩れて、ニイとお綱を見て笑った。

「あなたの子のお綱です、江戸表から……あ、逢いにきました」

「ウ……ム」

「お千絵さんも、私のように、無事に向うで成人しております。お分りになりますか、わ、わたしの顔が……わたしの……」