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なるとひちょう

鳴門秘帖(三)

吉川 英治

吉川英治『鳴門秘帖(三)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:鳴門秘帖、鳴門秘帖、鳴門秘帖。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 261,216 字 · 521 页

青空文庫

「じゃ、合図があった時、傷手ながら飛びおりて、麓へ下ろうと思ったのだろう」

「いや、自分で、こんな所から跳ぶはずはねえ。間者牢の山つづきだから、日が暮れて、うっかり辷り落ちたにちがいない。……重いだろう、周馬」

「足がつかえて困る」

「よし、手を貸そう」と、孫兵衛は側へ寄って行ったが、あさましい姿をみると、衝たれたように立ちすくんだ。

周馬の抱き方がまずいので、乱びん蒼白の死者が、グタッと襟骨を尖らせて垂れている。

ひと言。

「オイ」と、声をかけてみたい気がした。

額へ手を入れて、孫兵衛、グーと無理にもちあげてみると、目をねむって、青蝋のような冷たい死顔、頬と耳のうらあたりに、爪でひッ掻いたような赤い筋……。と見ると――

口が裂けたように、白い前歯が何かくわえていた。

一帖の血書!

いきなり、死首の歯から、孫兵衛がグッとそれを引ッたくったので、周馬は重さにのめりながら、すばやく、白眼にお十夜の手もとを見つけて、

「オイ! なんだ、今のはッ」

と死骸を下へ捨ててしまった。

一方。

龍耳老人は達者な足どりで、まないた岩の辺まで登ってきた。

なんたる寂寞さであろう、無辺な天地だろう。