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なるとひちょう
鳴門秘帖(三)
吉川 英治
吉川英治『鳴門秘帖(三)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:鳴門秘帖、鳴門秘帖、鳴門秘帖。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 261,216 字 · 521 页
と。かなたの浜蔵の廂の蔭にも、前の晩から寝ている男があった。
宿をとりそこねた旅人のように、頬冠りをして、その上へ菅笠、あたりの藁を集めて腰に敷き、浜蔵の壁に腕ぐみでぐんにゃりとよりかかっている。
だが、眼だけは、たえず真向うの酒井家蔵用人本田頼母の屋敷に注意していた。啓之助はそれを天満の万吉だとは夢にも知らなかったが、万吉の方では疾くから気がついていた。
間もなく――もう雀の声が聞かれる頃、ガタン、蔵屋敷の閂が鳴る、寝不足そうな仲間が箒を持って掃く、用人らしい男が出てゆく。
だが、周馬らしい者は出てこない。
「おや?」
万吉がちょっと目を放している間に、啓之助は、すっぽり、菰をかぶって用水桶の蔭から這いだしていた。
で、万吉も、あわててそこを立ち上がる。
ちょうどその時、細目に開かった裏門の隙から、スッと外へ出てきた男があった。
柿色の投頭巾に、横筋の袖無、丸ぐけの太い紐で、胸に人形箱をかけた、この頃町でよく見る飴売りの傀儡師という姿の者。
中から四、五人の声が、門の内でその傀儡師を見送った。男も挨拶をつげ、礼をのべているふうだったが、すぐと、要心深い挙動をして、霧の深い町の辻へスタスタと大股に歩きだした。