轻松读懂日语经典作品
ja-reading.com
轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。
なるとひちょう
鳴門秘帖(三)
吉川 英治
吉川英治『鳴門秘帖(三)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:鳴門秘帖、鳴門秘帖、鳴門秘帖。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 261,216 字 · 521 页
ひとり、襟に深く手をさし入れてうつむいている姿を見ても、その悩ましさが思いやられる。
いつか陽脚が傾いてきた。紫のひだを濃くしてゆく山の姿は夕暮の近さを示してきた。
と――あなたの小高い林をぬけてくる人数が見えた。奥甲賀の山間に陽がおちるまでと約束した、与力中西弥惣兵衛と、その手の捕方の影であった。
弦之丞はまたこういった。
「自分は純然たる幕府方の人間のようであって、まことは幕府に忠実な者ではござらぬ。それは今、秘帖の一半を裂いて阿波へ返してやった不審な行為でもお分りになろう」
と、あくまで、鴻山の切なすすめを拒んで、
「――底意を申せば、弦之丞めも、当今、皇学尊重のふうを非義とは存じられませぬ、むしろ、ひそかに王室の御衰微をなげいている一人なのでござります」
と、矛盾な気持を初めて明かした。
江戸に籍をおく身であって、一面、反幕府派と称せらるる皇学中心の運動をも、どうしても否定しきれないところに、かれの憂鬱が常にあった。
その矛盾を乗りこえて、かれをここまで勇躍させてきた力は、幕府のためというよりも、剣山で龍耳老人に告白したとおり、恋、義理、涙、そういうきずなにはきわめて弱いかれの個性――凡人凡智の情熱である。