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う
鵜
山本 周五郎
「講談倶楽部」博文館、1954(昭和29)年8月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,733 字 · 38 页
「いいえそうじゃありません、汚らわしい女と云われたから出てゆくんじゃありません、そうでなくとも、自分でなにもかも話してお暇を頂くつもりだったんです」
さだは巧みに浴衣をひっかけて立ち、隣りの納戸へいって、箪笥の音をさせはじめた。――小五郎は口をあけた。刀を持った右手をだらんと垂れ、納戸の物音を聞きながら、口をあけて大きく喘いだ。
「まさか、そんな」と彼は吃った、「出てゆくなんて、まさか、――本気でいうんじゃないだろうな」さだは答えなかった。
「そんなことはできない筈だ」と彼は云った。
納戸で帯をひろげる音がした。
「そんなことができる筈はない」
小五郎はふるえながら云った、「父はあんなに貴女を愛している、結婚して三年このかた、父はなんでも貴女の云うままになって来た」
「あなたにそうみえるだけよ」
「なんでも云いなり放題だった、眉をおとさせない、歯を染めさせない、家政もみさせない、城下の屋敷がいやだといえば、すぐにこの控え家へ移ってくると、あの年で二里ちかい道を毎日お城へかよっている」小五郎はそう云った、「しかも父は不平らしい顔もしないし、元気でわかわかしくさえなった」