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あすなろう
あすなろう
山本 周五郎
「小説新潮」新潮社、1960(昭和33)年8月~9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,925 字 · 41 页
たたのしみってえもんだ、そんなふうにして飲む一本の酒は、料理茶屋で十両使って飲む酒よりうめえだろう、それがおれにはできなかった、おれにはそうすることができなかったんだ」
四人伴れの客は、さっきから唄をうたいだし、皿小鉢を叩きだしたので、小女がよしてくれと止めにいった。一人がいきなり立ったが、伴れがなだめて皿小鉢を叩くのはよした。けれども唄のほうは代る代る、もっと高ごえでうたい続けた。そこへ二人伴れと三人伴れの客がはいって来、さっき口論をした二人伴れが出ていった。
「こんなことを云うのはへんだが」と政がそっと云った、「よかったらあにい、おれたちといっしょに木更津へいってみねえか」
「どうして」
「木更津にだって指物師の仕事はあるだろう、半年でも一年でも江戸をはなれて、田舎ぐらしも気が変っていいもんだぜ」
「おれの話がそんなふうに聞えたか」
「今夜十時に、百両持って娘が来るんだ、芝浜から出る木更津船には二人分の船賃も払ってある、あにいの分さえ払えばそれで木更津へゆけるんだよ」
「その娘のことを諦めるか」
「どうして」
「おらあかどわかしの片棒を担ぐなあまっぴらだ」