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あすなろう

あすなろう

山本 周五郎

「小説新潮」新潮社、1960(昭和33)年8月~9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,925 字 · 41 页

青空文庫

と文次が云った、「尤も、百両というのも怪しいし、娘の来るっていうのも怪しいがな」

「嘘じゃねえ正真正銘だってば」

「本金杉で質両替っていえば徳銀だろう」と文次が云った、「あれだけの物持のうちの娘が、こんな見えすいた手に乗るたあ思えねえ、案げえおめえのほうで一杯くわされてるんじゃあねえのか」

「じゃあためしてみねえな」と政はむっとした口ぶりで云った、「この向うに天福寺ってえ寺があるだろう」

「天福寺は知ってる」

「その境内に大きな檜があるが、そこで十時におち合う約束なんだ」

「おめえは間違ってる」

「まちげえなしだってばな」

「間違ってるよ」文次は二杯続けて呷った、「あの木は檜じゃあねえ、あすなろうっていうんだ」

「なんだ、木の話か」と云ってから、政は文次を見た、「――あすなろう、へんな名じゃあねえか、初めて聞いたぜ」

「小せえときはひばっていうんだ、檜に似ているが檜じゃあねえ、大きくなるとあすなろうっていう、あしたは檜になろうっていうわけさ、ところがどんなに大きくなってもあすなろう、決して檜にゃあなれねえんだ」

政は眼を伏せ、なんの意味もなく、茶のはいっている