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あすなろう
あすなろう
山本 周五郎
「小説新潮」新潮社、1960(昭和33)年8月~9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,925 字 · 41 页
土瓶を指で突ついた。
「おれたちみてえだな」と政が呟いた。
文次が彼を見た、「なんだって」
「あにいもいま云った、まともなくらしがしてえって」と政は力のない声で云った、「おれだってそう思わねえこたあねえんだ、それがどうしてもそうはいかねえ、――ちょうど、あすなろうみてえに、この世じゃあまともなくらしはできねえようだ」
文次は笑ったが、すぐに笑いやめ、政のほうへ身をのりだした。
「そう気がついたら徳銀の娘を諦めろ」と文次は云った、「おめえはまだ若え、この辺で立直れば深みへはまらずに済むぜ」
「それができればとっくにやってるさ」
「いっしょに木更津へゆこう」と文次は感情をこめて云った、「ぐれた同志だからお互えが力になれる、田舎へいって地道に稼いで、よごれた躯をきれいにしようじゃねえか」
「あにいにそんなことを云われようたあ思わなかったな」政は渋い顔をした、「せっかくだがそいつはだめだ、娘はもうのぼせあがって、おれとならどんな苦労でもする気になってるし、なにしろ百両ってものが付いてるんだからな、そんな大金を手にするのは生れてこのかた初めてなんだから」