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あすなろう
あすなろう
山本 周五郎
「小説新潮」新潮社、1960(昭和33)年8月~9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,925 字 · 41 页
「いやなやつだな、おめえは」
「松あにいは知らねえか」
「おれは文次ってんだ」と年上の男が云った、「なにを聞き違えたか知らねえが、名まえは文次ってんだから覚えといてくれ」
「おかしいな」と若いほうが云った、「初めにおれが政だと名のったら、あにいは慥か」
「文次だ」と彼は押っかぶせるように云った、「職は指物師、名めえは文次、わかったか」
「わかったよ」と政は頷いた。
「それで」と文次が促した、「おれがなにを知らねえって」
「なんだっけ、ああ――」政は一と口啜ると、飯台へ片肘を突き、文次を斜から見あげるようにして云った、「あにいは小さいじぶん、女の子にちょっかいをだされたことがねえかっていうんだ」
「ねえな」と文次は答えた、「おれのほうから乱暴をして泣かしたことはあるが、女の子にちょっかいをだされたなんて覚えはねえ」
「おれは幾たびもあるんだ、いちばん初めは四つの年だ」彼は追憶を舐めるような口ぶりで云った、「相手は同じ町内の娘で、年は六つか七つだったろう、増上寺の境内へ遊びにいって、竹やぶの中で仰向きにされて押っぺされた、そのとき背中で竹の枯葉がごそごそ鳴った