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このこをのこして
この子を残して
永井 隆
「この子を殘して」大日本雄辯会講談社、1948(昭和23)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 102,102 字 · 203 页
立ったときのその孤児になって考えてみよう。
少年に悪人はいない。……このフラガン神父の言葉をまず正しいものと認めていただきたい。
ある程度の経験を積んだ職員は、いやそうじゃない、近ごろの孤児はなかなかすれてるから、うっかりすると大人がだまされて、ひどい目にあう、と言うかもしれない。
しかし、それは大人が悪くて、素直な孤児を悪くしてしまったのだ。孤児をだましたから、孤児も真似して人をだますことを覚えたのである。
罪なくして配所の月を眺めたい! と願った幸福な詩人のいたのは昔のことだが、それに共感を起こした閑人は近代にも少なくなかった。しかし、ほんとうにそんな目にあわせられたら彼らはのんきな詩や歌を作ったであろうか? ――孤児はまさしく罪なくして配所の月を眺めさせられている。
孤児はこの戦争になんの責任があろう? この敗戦になんの責任があろう? このインフレーションになんの責任があろう? ――彼らになんら罪はない。しかるに戦争の犠牲は彼らに求められた。敗戦の悲惨は彼らの上に集められた。インフレーションの恐ろしい結果はまず彼らをおびやかした。彼らが弱いゆえに、彼らが悪知恵をもたぬがゆえに、彼らが独りぼっちであるがゆえに……。