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このにぎりめし

この握りめし

岸田 国士

「日光 第三巻第一号」1950(昭和25)年1月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,649 字 · 27 页

青空文庫

「うむ、まあ、しかたがないさ。おれの絵はおれの絵の好きな奴に買つてもらいたいんだが、そうばかりもいかんよ。まあ、一杯行こう。ところで、君は、いつたい、いくつ? 僕の兄きか、弟か?」

「二十七です。多分、弟でしよう」

「いけねえ、同い年だ。じや、お前、おれで、これから話そう。岡本さんなんて呼ぶなよ。岡本でいゝ。こつちも、なんだつけ?」

「増田です」

「です、は、いかんよ。おい、増田、お巡りなんぞになりやがつて、いつたいどういう量見だ。まず、それを言え」

相手は一杯機嫌で、そんなことはなんでもなさそうだが、こつちは、いきなり、おいそれとその調子に成りかねた。それでも、ぼつぼつ、酔うに従つてというよりも、酔つたふりをして敬語をはぶくことにし、

「そんな、無理言つても困るよ。職業を撰ぶ自由は誰にでもあるからな」

「当りめえよ。だからさ、どんな量見でお巡りなんぞになつたんだ、と訊いてるんだ」

「そんなら、そつちも、どんな量見で、絵かきになんぞになつたんだ?」

「とぼけるねえ。絵かきになるのが、どこがわるい?」

「お巡りになつたのが、わるいというのか、やいこら」

「よくもあるめえ、糞面白くもねえ、罪人をふん縛る商売なんぞ、人に任せとけ」