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このにぎりめし
この握りめし
岸田 国士
「日光 第三巻第一号」1950(昭和25)年1月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,649 字 · 27 页
ちよつと日本じや金にならんて。そいつをはじめからたしかめとくとよかつたんだ」
「しかし、信濃屋さん、油絵だつて、わしの聞いたところじや、大家になると万という値打ちのもんだそうだよ」
「あれが大家の顔かね、あの顔が……。よだれ垂らさんのが不思議さね」
「大賢は大愚に似たりか。天才は気狂いと紙一重なんだよ、信濃屋さん」
「そうかも知れん。しかし、今日の経済事情はですよ、増田さん、あの岡本某なる三文絵かきが天下に名を出すまで、誰も待つちやおらんのですよ」
「わしはその岡本さんと口を利いたことはたつた一度だ。戸籍調べに行つた、あん時だけだ。なるほど風変りな人物だとは思つたが、決してインチキをやるような男じやないね」
「正々堂々と無銭宿泊をするなら、罪にならんのですかい」
「逃げも隠れもしないんだろう」
「逃がさんもの、こつちが」
「いずれ払うとはいうんだろう」
「すぐ払つてもらいたいんだ、こつちは」
「払えるもんなら払わせたらいゝな」
「払えんとなると、どうなるね」
「そこは相談さ。いつまで待つとか、代りに品物を置いて行かせるとか……」
「待つ当てもなく、これという金目のものはお持ちにならんとすると?」