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あわもりものがたり
『たぬき汁』以後
佐藤 垢石
佐藤垢石『『たぬき汁』以後』。同一底本的分册已合并为一书。收入:泡盛物語、岩魚、烏恵寿毛、越後の闘牛、岡ふぐ談、香熊、熊狩名人、猿ヶ京、支那の狸汁、しゃもじ(杓子)、食指談、純情狸、食べもの、飛沙魚、鯰、入社試験、魔味洗心、老狸伝、わが童心、ミミズ酒と美女。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,470 字 · 244 页
甚だ妖しき、ぞくぞく感である。これは妙だと思った途端。
その途端に、私の眼に映った異形のものがある。路の左側の、桑畑の茂った上に、淡墨色の空を背景として、しゃもじ形の怪物が、にょろにょろと浮かび上がった。しゃもじは昔から農家で使うところの、木彫りの味噌汁しゃもじだ。
大きさは、およそ畳一枚くらい。しゃもじの柄は、くらげの足のように、ゆらゆらと揺らいでいるではないか。色は、漆黒。
真っ黒な大しゃもじは、しばし私を睥睨するように、のし掛からんずるようにして、宙に止まり浮いている。私は、眼に映った瞬間、仰天したけれど、咄嗟に一歩退いて、空を仰いでしゃもじを凝視した。
しゃもじは、私のすぐ前の空を、腕を伸ばせば届くかと思えるほど近く低い宙を、左側の畑から右側の畑へ向かって動きはじめた。柄は、猫の尻っ尾でもあるように、尖端をぶるぶると震わせながら、動いていく。
私の眼の前の、路の空間をゆるゆると横断して、右側の畑の上に移り、柄で桑樹を撫でる如くに進んで行くのである。
はっ、と思った瞬間に、しゃもじは跡型もなく消え失せた。後には、遠く星がきらめいているのみ。