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あわもりものがたり

『たぬき汁』以後

佐藤 垢石

佐藤垢石『『たぬき汁』以後』。同一底本的分册已合并为一书。收入:泡盛物語、岩魚、烏恵寿毛、越後の闘牛、岡ふぐ談、香熊、熊狩名人、猿ヶ京、支那の狸汁、しゃもじ(杓子)、食指談、純情狸、食べもの、飛沙魚、鯰、入社試験、魔味洗心、老狸伝、わが童心、ミミズ酒と美女。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,470 字 · 244 页

青空文庫

沼之上の家で皆が待っていますよ」

「そうはゆかぬ」

「どうしてお爺さん、そのわけ聞かせてくださいよ」

「お前に話しても理解はゆくまいがな、わしは沼之上の家を出て以来、この信州と上州の国境に聳える横手山の洞窟に齢老いた野守と夫婦の暮らしを営んでいる。これから先、幾百年も幾千年も、このままこのあたりにいるであろうが、わしに逢いたいと思うたら、なん時なりと、この渋峠の頂へ来るがよい」

「野守といいますと?」

「それは、説明せぬがよかろう」

こう老爺が答えたとき、賢彌は自分が友人達に遠く遅れていることに気がついた。と同時にちょっと後ろを振り向いた。もちろん脚力の強い人々が遠く往ったのであるから賢彌の眼に見えるわけではないから、再び老爺の方を振り向くと、そこにはもうなに者の影もなかった。ただ、雪の峠路が続いているばかりである。

老爺の姿は、幽風のように消え去っていた。

五

沼之上の家へ帰った賢彌は、挨拶が済むと直ぐ、渋峠の頂で曾祖父の姿に逢った次第を物語った。祖母みよはこの話をきいて、深く心に思い当たるところがあったのである。

それは、姑のふみ女が存命の折り、姑は嫁にときどき、わたしの良人裕八郎は、どこか遠い遠い山の魔に魅せられていた。