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あわもりものがたり

『たぬき汁』以後

佐藤 垢石

佐藤垢石『『たぬき汁』以後』。同一底本的分册已合并为一书。收入:泡盛物語、岩魚、烏恵寿毛、越後の闘牛、岡ふぐ談、香熊、熊狩名人、猿ヶ京、支那の狸汁、しゃもじ(杓子)、食指談、純情狸、食べもの、飛沙魚、鯰、入社試験、魔味洗心、老狸伝、わが童心、ミミズ酒と美女。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,470 字 · 244 页

青空文庫

ところで、ある夜賢彌は更けるまで雑誌を読んでいた。時計を見ると、午前二時近くなっていたのである。一風呂浴びて床へ入ろうと考え、手拭さげて風呂場へ行った。

賢彌の室は、新築した大きな別館の二階で、階段を降りて廊下を左へ曲がり、廊下はそのまま西川渓流の橋となっていて、橋が尽きるとまた左へ曲がり、暗い廊下が尽きたところの左側が風呂場になっていた。

風呂場には、小さい石油洋灯の淡い光が、浴槽の面をぼんやり照らしていた。法師温泉へはいまでも送電線がきていない。どの室にも、風呂場にも石油洋灯を用いているのである。

曵戸の格子から風呂場を覗くと、広い浴槽の向こうの正面の片隅に、誰か人が一人湯に浸っている。この夜更けに誰かと思って賢彌は瞳を凝らした。ゆらゆらと立ち昇る湯気のために、はっきりと分からないが、女であるらしい。賢彌は、ちょっとためらった。しかし、先客があるからといって風呂へ入らぬわけにはゆかぬ。曳戸を開けた脱衣場の棚へ衣物を投げ込み、浴槽のなかへ静かに入った。

果たして、女であった。賢彌は、静かに湯へからだを浸したつもりではあるけれど、湯は音をたてた。