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あわもりものがたり

『たぬき汁』以後

佐藤 垢石

佐藤垢石『『たぬき汁』以後』。同一底本的分册已合并为一书。收入:泡盛物語、岩魚、烏恵寿毛、越後の闘牛、岡ふぐ談、香熊、熊狩名人、猿ヶ京、支那の狸汁、しゃもじ(杓子)、食指談、純情狸、食べもの、飛沙魚、鯰、入社試験、魔味洗心、老狸伝、わが童心、ミミズ酒と美女。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,470 字 · 244 页

青空文庫

そのとき、私は翻然真人間に返った。

しかしながら、この三百円をもって一家を支え行かねばならない。右を向いても左を向いても借金で不義理だらけ。友人には悉く信用を失い、誰一人就職の世話など、奔走してくれぬ。このままで、この三百円に物を言わせないとあれば、家族は路頭に迷い、前橋の食詰横町行きだ。学友との笑い話がほん物になって、遂にカンニング崩れとなるであろう。

思案、才覚、勘考、ありたけの知恵を絞った揚句、最後に三百円の資本をもって、めし屋を開業することに方針を決定した。なにしろ、資本が極めて薄いのであるから、東京の中央で店を開くなどは思いもよらない。まず場末を選ぶことになったのである。

中仙道の板橋方面、甲州街道の柏木方面、奥州浜街道の千住あたりを極力捜したのであるがいかに場末と雖も、資本金三百円をもって開店し得るような、街道に沿うところに、そんなささやかな貸家はない。しかし懸命になって捜し歩いた。とうとう、大井町の鮫洲の近くで一軒家を見つけた。京浜国道に沿ったところに、小料理屋が居抜きのままで譲るという。

茶碗、小鉢、椅子、卓子までつけて、金百円でよろしいというのだ。