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あわもりものがたり
『たぬき汁』以後
佐藤 垢石
佐藤垢石『『たぬき汁』以後』。同一底本的分册已合并为一书。收入:泡盛物語、岩魚、烏恵寿毛、越後の闘牛、岡ふぐ談、香熊、熊狩名人、猿ヶ京、支那の狸汁、しゃもじ(杓子)、食指談、純情狸、食べもの、飛沙魚、鯰、入社試験、魔味洗心、老狸伝、わが童心、ミミズ酒と美女。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,470 字 · 244 页
第一番組の取組が、はじまるのだ。東の口から曳きだされてきたのが、塩谷村の甚六牛である。茶色で、肩の肉瘤隆々として盛り上がり、目方は二百貫近くもあろうか。
堂々として逞しい。内に向かって曲がった両の角は、あくまで鋭く馬琴が形容した通り、烏犀か石剣というほどである。
西の口から牽きだされてきたのは、竹沢村の徳蔵牛だ。これは純黒の毛なみ、恰も黒天鵞絨のように艶々しく光り、背にまたがればつるりと辷りはせぬかと思うほど肌が磨いてある。肩の肉も、尻の肉も、張りきって波打ち、横綱力士の便腹の如しといいたいが横綱の腹を五つや六つ持ってきたところで、到底及ぶまい。
意地汚い話だけれど、あの肉塊が一つあったなら、幾十人前のすき焼きができるだろう。時節柄、私は長い間随分肉類に飢えてきているなど、ひとりでに妙な考えが頭に浮かんで、思わず唾液を舌に絡ませた。徳蔵牛は、二百貫を越えているだろう。
三
東西から出た飼主に鼻面をとられたまま、順に場内を一巡して、そして最後に場の中央で顔を合わせた。ところで、牛は既に場内へ牽き入れられた時、猛然と闘志を燃やしているのだ。顔を合わせるやその瞬間、丸い大きな両眼を豁と開いて、黒い瞳を上険の近くへ吊りあげて、相手を睨めた。