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あわもりものがたり
『たぬき汁』以後
佐藤 垢石
佐藤垢石『『たぬき汁』以後』。同一底本的分册已合并为一书。收入:泡盛物語、岩魚、烏恵寿毛、越後の闘牛、岡ふぐ談、香熊、熊狩名人、猿ヶ京、支那の狸汁、しゃもじ(杓子)、食指談、純情狸、食べもの、飛沙魚、鯰、入社試験、魔味洗心、老狸伝、わが童心、ミミズ酒と美女。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,470 字 · 244 页
人間を見て、逃げだしたのであろう。
それまで知っているが、あとは知らない。気がついたときには、二里も離れた人里近い土橋の上に、二人は蒼白の顔を見合っていた。
私は、あとにもさきにも、こんな恐ろしい目にあったことはないのである。
野州鬼怒川の支流に、男鹿川というのがある。そのまた支流に、湯西川と称する渓流があって、これは会津境の枯木山に水源を持っているのである。水源に近いところに湯西川温泉という岩風呂の景勝までは、よく人のいくところだが、それより一里奥の高手と呼ぶ平家の落ち武者が営んだ部落へは、訪う人が少ない。
三、四年前の四月の末、私は釣友三人と共に、この湯西川渓谷から、富士ヶ崎峠を越えて、奥日光の上呂部渓谷へ降り込む旅に、高手の部落へ足を入れた。
ところが、一軒の樵夫の家の軒に、生々しい熊の皮が、赤い肌を陽に向けて、三枚も吊るしてある。私らは、その庭で藁仕事をしている老人に、熊の皮のわけを問うと、これはきのう富士ヶ崎峠の右脇の谷に、穴住まいしていた大熊を三頭一時に撃ち取り、けさ皮を剥いて干したばかりだと答えるのである。
「こりゃ、しまった」
富士ヶ崎峠と言えば、これから我々が越えようとする峠だ。