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ちゃん

ちゃん

山本 周五郎

「週刊朝日別冊陽春特別読物号」朝日新聞社、1958(昭和33)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,377 字 · 45 页

青空文庫

「そうじゃねえ、あの客と飲みてえんだ」

と重吉はあごをしゃくった、「うん、あの客だ、おれは先にあがってるから、済まねえが呼んでくんねえか」

「だって重さん知らない顔よ」

「いいから頼む」と云って彼はふところを押えた、「今日は少し置いてゆくから」

おくにはにらんで、「そんなことを云うと、うちのが怒るわよ」と云った。

重吉は奥へあがった。おくには手早く酒肴をはこび、支度ができると男を呼んだ。男は卑屈に恐縮したが、それでもあがって来て膳の向うへ坐り、いかにもうれしそうに盃を受けた。そして、四本めの酒をあけたとき、重吉はたまりかねて云った。

「その親方ってのをよしてくれ、おれは重吉っていうんだ、頼むから名前を呼んでくれ、それに」と彼は相手を見た、「そうかしこまってばかりいちゃあ酒がまずくなる、もっとざっくばらんにやってくんな」

男はあいそ笑いをし、頭をかいた、「済みません、あっしは喜助ってもんです、お気に障ったら勘弁しておくんなさい」

「それがかしこまるってんだ、もっと楽にやれねえのかい」

そのじぶんはもう酔いが出ていたのだ。

喜助という男は彼を「重さんの親方」