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つばくろ

つばくろ

山本 周五郎

「講談倶楽部 秋の大増刊」大日本雄弁会講談社、1950(昭和25)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,987 字 · 44 页

青空文庫

ときどき短かい話しを交わすと、いつもお互いの小さい頃の思い出であった。

「そしてつい先夜のことですが、森さまは奥さまがお部屋へ去られてから、私をお呼びになって、泣きながらこのようにお話しなさいました」

松助は呻くような声で云った。三之助は自分とおいちとの関係を語ったのである、それは高雄がおいちから聞いたのと同じもので、彼は自分が庶子であることもうちあけた。……江戸へ養子にゆくことに定り、ゆくまえにひと眼だけ逢いたいと思い、逢うと一度では済まず、二度、三度と重なるうちに、こんどは離れることができなくなったいきさつ、それも隠さずに語った。

――高雄の計らいで猿ヶ谷へ来て、おいちと二人になったとき、自分はすぐに気がついた、自分の気持は恋ではなかった、母のように、姉のように慕っていたのである、愛情というものを知らなかった自分に、おいちが初めて、この世でたった一人、愛情を示して呉れた、……生れて初めて、愛情のあまやかさを知り、温かな心の喜びを知った、そうしていかなる犠牲をはらっても、おいちを奪い取りたいと思ったのである、だがいざ望みどおり二人だけになったとき、自分にはおいちの手に触れることもできなかった。