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ひやめしものがたり
ひやめし物語
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1947(昭和22)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,861 字 · 31 页
「いきなり縁談とは思い切ったものだな」
「その男とは私が中村へいってから役向きの関係で親しくしていたんですよ、そしてみそめから鶴の病いまで精しく話すんです」
「恥から先に話す相談だね」と、粂之助が云った、「然しよっぽど妹を愛しているんだ」
「そうですとも、まったくしんけんなんです、けれど残念ながら嫁に出さなければならない、それでこちらも四男坊で、分家の出来ないという事情を話すと、たいへんがっかりして、帰ってゆきました」
「いったい相手は誰なんだ」又左衛門がこんどはまじめにこう訊いた。
「纒まる話なら云ってもいいですが、両方の条件がいけないから名を云うのはよしましょう、それに惜しいほどの相手じゃあないんです」又三郎はあっさり云った、「ただ四郎がよその娘にみそめられたというのがばかに嬉しかったので、みんなで祝杯をあげたくなったんです、なにしろ我われ三人すっかり末弟にさらわれたかたちですからね」
「残り物に福があったわけか」
「それじゃあ小遣もふやさなければなるまいなあ、四郎」
又左衛門が笑いながらこっちを見た、「そういう仕儀だとすると、もう飴ばかりねだってもいられないだろうから」