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ひやめしものがたり

ひやめし物語

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1947(昭和22)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,861 字 · 31 页

青空文庫

「然し臨慶史を持っていると聞いたがね」

「ああ史類は二三ある」

「とにかく見せて呉れないか、そのために来て一刻も待っていたんだ」

大四郎は苦笑しながら、立って、自分の部屋へ彼を案内した。すでに暗くなりかけていたので、行燈に灯をいれると、吉之助はそれを書棚の側へ持っていって見はじめた。それから部屋の隅や床間に積んであるもの、まだ表装を直さずにつくねてあるものなど、……幾たびも嘆息をもらしながら、熱心にひとわたり見終るとこっちへ来て坐った。

「これだけ独りで集めたのかね」

「たいてい破損して、紙屑になりかかっていたものが多いからね、むろん保存がよかったら、手は届かなかったろうね」

「それにしてもよく集めた、これほどとは思わなかったよ」こう云ってから吉之助は容を改めた、「済まない、これを類別に書いて出して呉れないか」

「……どうするんだ」

「まだ内密だけれど、きょう見に来たのはお上の御命令だったんだ、書肆の難波屋が其許のことを申上げたらしい、だいぶ奇覯書があるそうだから見て来いという仰せで来たんだ」

「すると、献上ということにでもなるわけかね」

「あぶないね」吉之助は笑いながら立った、「私が見ただけでも御文庫に備えたいものがだいぶあるもの、然しそれもまた御奉公だろう」