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へちまのき
へちまの木
山本 周五郎
「小説新潮」新潮社、1966(昭和41)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,120 字 · 58 页
「げにもっとも」と云って房二郎は、からになった燗徳利を取って振った、「おやじ、酒だ」
「だめです」ととんびのあるじはかたくなに云い返した、「うちは酒をあじわってもらう店で、酔っぱらうために飲ませるんじゃあねえんだから」
つけ板のまわりにはほかに二人、お店者らしい中年の男が、この店のかみさんの酌でひっそりと飲んでいた。房二郎はあいそのない亭主の言葉にむっとした。仮にもしょうばいをしているのに、そんな客を突きとばすような挨拶はないだろう、と思ったのであるが、他の二人の客のことを考えて、尋常に頭をさげた。
「これもげにもっとも」と房二郎は云った、「勘定をしてもらおうか」
房二郎はどきっとし、坊主枕から頭をもたげた。暗くしてある行燈の仄かな光で、自分の横に女が寝てい、裸の足と手が、自分の躯に絡みついているのに気づいた。
「おい、起きてくれ」と彼は女の肩をゆり動かした、「ここはどこだ、おまえは誰だ」
女は房二郎にしがみつき、その胸に顔をすり寄せながら、黙って眠って、と囁いた。そのまま眠ってちょうだい、あたしすぐに向うへゆくから、と付け加えた。彼はまたそのまま眠ってしまった。