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へちまのき

へちまの木

山本 周五郎

「小説新潮」新潮社、1966(昭和41)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,120 字 · 58 页

青空文庫

明くる朝、文華堂の記事部屋で、房二郎は蒼い顔をして、水ばかり飲んでいた。

「宿酔かい」と木内桜谷がにやにやしながら云った、「房やんはあまり強くはないんだな」

「ゆうべはどのくらい飲んだのかな」

「おれの知っている限りじゃあ二合とちょっとだったぜ、そのあとは知らねえがね」

「うーん」房二郎は唸った、「どこで別れたのかね」

「おまえさんはむちゃだよ」木内はせっせと筆を動かしながら云った、「一杯飲むとすぐにどこかへいこう、と云ってきかねえんだ、五軒か六軒まわったかな、こっちが疲れちまって、小網町で別れたよ」

房二郎はぎょっとしたように振り向いた、「小網町だって、まさか沢茂じゃあねえだろうな」

「それが沢茂さ」

「冗談じゃあねえぜ」

「どうしてもゆくんだってきかねえんだ、こんどはおれが刺身のかなっけをためしてやるんだってな」

「冗談じゃねえ、総毛立つぜ」房二郎は首をすくめた、「それで刺身を食ったのか」

「なんにも食わなかったよ」木内はまたにやっと笑った、「五つ品ぐらい注文したかな、みんな箸で突つくだけで、なにか文句ばかり云っていたようだぜ」

「ぞっとするね、ひでえもんだ、おらあ本当は酒はだめなんだ、婿の縁談が始まってから、やけくそになって飲みだしたんだが、盃で五つも飲めばぶっ倒れるほうさ」