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へちまのき
へちまの木
山本 周五郎
「小説新潮」新潮社、1966(昭和41)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,120 字 · 58 页
「懲りたのは親のほうってわけか」
「みごとにしっぺ返しをくらったようなものさ」
房二郎はまた微笑し、けれどもすぐに、眉をしかめた。その子は町内の人たち総出で捜しだされた。おれのうちはどうだろう、父や母や兄や姉たちは、おれを捜しているだろうか。いや、そうではあるまい、おそらく厄介払いをしたと、ほっとしていることだろう、と彼は思った。
「おい、おちょぼ」と前にいる男が小女を呼んだ、「そこにいるおちょぼ、聞えないのか」
指をさされた小女はむっとしたように、頬をふくらせてこっちへ来ながら、自分の名はおつゆで、おちょぼなんていうへんてこなものではない、と抗議した。
「おつゆだって」と男はよく動く眼でじっと小女をみつめながら、歯を見せて、声を出さずに笑った、「悪かったな、ずいぶん丈夫そうなおつゆさんだ、お通じはきちんとあるかい」
房二郎は危なくふきだしそうになった。
「わかんねこと云うお客だよ、このひと」とその小女は云った、「用はなんだね」
「酒と刺身だ」と男は云った、「刺身は鮪の中とろだよ」
おかしな注文をするな、と房二郎は思った。鰺の塩焼の次に芋汁、そして甘煮のあとで刺身とは、順序が逆のようじゃないか。